義母の短歌

98歳で永眠した義母が書き残した短歌です

カテゴリー:人・子供(七)

福知山市三和町寺尾 妙見山実相寺(日蓮宗)

 

手作り短歌集(七)に蒐集されている短歌を、11のカテゴリーに分類いたしました。
短歌集に掲載された266首の内、3番目のカテゴリー【人・子供】に分類した短歌(39首)を掲載いたします。

<義母の短歌>カテゴリー:人・子供(七)

#1741    やわらかき他人の赤児を抱き上げてあやしいるのかあやされいるにか


#1746    屋根屋来て樋屋も来たり口ぐちに人の弱味を掻き回し去ぬ


#1761    膝に馴れ足踏みたてるみどり児に遠き胎動さまされていつ


#1767    三隣亡のひと日の終焉ドアロック開けてくれたり白皙の青年


#1771    生活の匂い隠さず割り勘の主婦等去りたる後の静けさ


#1776    いち日の生計をかけて野菜売り小銭数えし遠き若さよ


#1786    コーヒーを前に頬杖つく男何にも見たくはないと言う貌


#1787    間わぬのに「風邪引いたんや」と言う人の草臥れし顔もの哀しけれ


#1789    思考力妬心慈悲心茫ぼうと物体のごときが昼餉摂りいる


#1791    異人種に遭いしごとくに読みとばすわれに要なき若人の歌


#1792    背広着てネクタイ締める詐欺男「知らぬ知らぬ」と破れかぶれに


#1799    信号を待つ目に映りし消えそうな知らぬ老婆の小さき後ろ姿


#1800    一息に飲み干すビールの缶潰す大き掌ふと憎らしき


#1802    乗り捨てのバイクに凭れる錆自転車父と子に似るバス停の裏


#1807    山の彼方に幸い住むと唄いたる人現れよ倶に探さむ


#1824    よく聞けば日本語なりき朱茶髪乱して唄う若者の歌


#1826    「みいちゃん」と呼ばれし童女七転び八起きの末を強かに老ゆ


#1827    苦を持たぬ貌造るのに苦労する一寸さみしい倖せな女


#1833    格別に親しくもなき人の来て定年退職を繰り返し告ぐ


#1854    雪中に鉈さげて立つ男の背を孤独と見るはわが孤独の目


#1861    鉢に咲く白梅水泡と溢るるを友が家に見つ土欲るとみつ


#1865    閑居なす老女二人の尽くるなき饒舌湿りを帯びゆく黄昏


#1867    笑い声不意に聴こえて振り向けば携帯電話に戯れる若者


#1875    少女期の吾が匂い持たぬ友と居て橋なき流れ飛沫てやまず


#1883    安売りの卵幾百並びたち主婦の手を持つスーパーの朝


#1884    半額の落とし紙買うゆきずりの人に会釈を投げる軽さに


#1885    子連れなる母鬼の像ふたつ程建てて下され大江町長殿


#1908    花桃の枝嫋やかにしだれ伸び稚苗くれにし婆様逝けり


#1919    かなしみを知らぬ黒髪夜毎洗う汝れが長き世慎ましくあれ


#1937    繰り返す電光文字に飽きし頃待人現る慌てるでもなく


#1944    一丁の金槌に石垣積みくれし匠の技を継ぐもの世になし


#1956    無料にてお掃除させて下さいなど何を企む電話の向こう


#1959    境遇の相似る友より哀愁の文字連ねたるハガキ届けり


#1960    求めねば失うこともなかりしを置きし電話にもの申したき


#1968    「小母ちゃんの顔見に来たよ」青年の黄金で買えぬ笑顔可愛ゆし


#1979    ケーキ皿取り上げるなと手に囲う老い人あわれ甘味制限


#1984    さりげなくケーキ下げ来し男の友よ今日ひなの日と知りてか知らずか


#1988    訃報欄真先に目をやる年令のあな痛ましや五十代あり


#1989    思い出の中に絹着て眠りいる人には価値なきひとつ事あり

 

<365人の生き方>

■辛抱を 十年間 できますか    

■何毎も 10年やれば 出来るもの    

浅利慶太 劇団四季芸術総監督)