義母の短歌

98歳で永眠した義母が書き残した短歌です

カテゴリー:自分・生活(七)

福知山市三和町千束 大歳神社

 

<短歌集(七)の掲載を終えて>
 昨日までに、義母の手作り短歌集(七)に蒐集された、平成九年一月から三月に詠んだ266首の掲載を終えました。
今日からは、短歌集(七)に掲載された266首の短歌を11のカテゴリーに分類し掲載していきます。
 短歌集(七)に掲載された266首の内、1番目に多く(67首)含まれるカテゴリー【自分・生活】に分類した短歌です。

 

 

<義母の短歌>カテゴリー:自分・生活

#1735    まとうものなべて脱ぎたる眞裸の夕陽みずからの茜に浮けり


#1738    花苗が甘えた声を出しそうな久方ぶりの土との対面


#1740    すこやかに今日を生き伸び思うなり一病持つ故心まろしと


#1743    泥滲みのなき冬の爪切り揃え緩む涙腺押えかねいつ 


#1745    ほろ苦き老境とうを受け入れむと諾いてより楽になりたり


#1748    心地良き空腹感あり噛むりんごさくさく胃の腑の常闇充たす


#1750    雪は魔ものと友に言い置きみずからには歌は魔性を宿すと言いき


#1752    歌詠みのわれを知らずに逝きし夫互みにそれを倖せとせん


#1753    手つけずの雪に重なる屋根雪のとりでの如くひとり屋囲む


#1754    雪折れの匂い放てる樹もあらん雪降り沈む里の埋もれ女


#1758    多感なるわれに関わる諸人に借りを抱ける心地こそすれ


#1759    閑居なしいたずらに吐くもつれ糸にみずから巻かるる愚を繰り返す


#1760    つまずきし溝蓋は言う「わたしはあんたに置かれて此処に居るのみ」


#1774    ゆく水も心も刻も止まるなし捨て歌百首無駄にはなさじ


#1775    触れ難き装飾皿より温かし気付かぬ程の疵持つ湯呑み


#1780    我にのみ解る捨て歌火に入れるたまゆら錐状の痛み走れり


#1781    ひと廻り若き男を恐がらせ銀杏の殻を歯に割る快感


#1790    五カ年の歌歴の霜枯れ厳しかり初心に還れと呼ぶ声もなし


#1793    心根の複雑骨折癒えし瞬獅子身中の虫も死にたり


#1794    半日に薄れし口紅ひき直すもんぺの綻び縫うごとく


#1797    子が大事われとて同じ帰省者の心そぞろを咎めはすまじ


#1798    何をしているかと問われ口籠る只今残夢整理中なり


#1801    足ひきてゆく人やたら目に留まり身に引き替えて寒く街ゆく


#1808    引き潮に攫われゆきし歌心無疵のままで不意に戻り来


#1809    八方美人手のつけられぬエゴイズムまとめて此処に私の象


#1811    わが食ぶる野菜は店舗に任せ置き土を区切りて花を培う


#1816    四面楚歌戯れ言歌を書き並べやや救われて灯消すなり


#1819    薬湯の効き目か骨の鳴る音を近頃聴かぬ一縷の望み


#1820    囚人にあらねどみずから鍵解かず皿に錆噴くりんごの歯型


#1822    拾い来し古釘ならぬ釘一本何処に打ち込み生かしやらんか


#1843    昭和七十三年満期の保険ありその時私の昭和が終わる


#1845    鬼女の像あらぬを不図もいぶかしむ閑居なすわが心の火花


#1859    抱きしめるやわらかきもの時に欲しさりとて猫を飼う気もあらず


#1862    歌捨てなば何処に宿らむ吾が心冬蛍ひそけく息整える


#1868    白と黒はっきりさせねば進めざる性に疲れて深める孤独


#1869    つづら折りのカーブに入れば我が庭を走るに等しきハンドルさばき


#1870    爪を噛むくせ無意識に甦る落ち葉を潜る水のごと居て


#1876    実現性先づはなけれど窓側の席占めてゆく空の夢旅


#1877    象ある些細も残さず夜の来て昼と異なる安らぎにいる


#1882    免許証バックに確かめ腰上げるガソリンは満タン空は快晴


#1894    湿り持つ枯れ木を寄せて虚しさも俱に燃す火の高くは上がらず


#1899    蕗の薹も少しは欲しと行きし野の戻りの径の意外に遠し


#1900    人の目を惹く艶持たぬまんさくの花とつくづく初老の女


#1909    冷蔵庫のドア開けるごと入りゆく四季の移ろい消えしスーパー


#1912    埃被る辻堂の前車停め憩うに良けれ合掌はせず


#1914    聞いているつもりが他事思いいて誤魔化し笑いの後味悪し


#1915    いま少しゆっくり手指動かせと言われし掌いまやわらかし


#1920    式台に腰掛けゆっくり靴を脱ぐ塵か芥か洩るる吐息は


#1922    甘辛く煮上げし冬の茄子の味誰も居らぬに「おいしいねえ」?


#1923    テレホンに契約なせしウォーカー三日坊主に終わらすまいぞ


#1925    野良猫の出入り自由に許されて風も落ち葉も床下に棲みき


#1936    抵抗もなく捨ててゆく夢幾つ生きゆく荷物は軽きがよろし


#1948    長大根ひょろり伸び立ちわたし等も花を咲かせて見せようかいな


#1949    十年後も今の私のままでいるそんな気がする晴天の日は


#1957    あの時に斯うして置けばと悔ゆる程ゆるゆる生きて来しと思わず


#1958    咲くことを秋より告げて一向に変わらぬ水木の蕾目覚めよ


#1961    一円玉ひとつが欲しや公の銭勘定の堅苦しきに


#1962    諸もろのもやもや歌に詠み固めさばさば午後に向かわんとする


#1963    ハーモニカほろほろ吹けば届かんか庭の小鳥に聴く耳あらば


#1964    白昼は人語を少し下されたし夜はひとりの世界に足れど


#1967    病む人の苦しみ焦りに較べぶれば物の数にもあらずひとり居


#1976    激しさを隠さんとして色も香も失せたる語彙の木乃伊に付き合う


#1978    コーヒーはブッラクが好きトーストには少し焦げ目を七十三歳


#1987    半日の畑仕事に満たされし心に疲れし脚がもの言う


#1990    此の家に戻る他なし冷えし身は真先に薬湯沸かさむとする


#1991    悲しみに忘却の帽被せしは歌知り初めし平成四年


#1995    枝打ちし幹のごとくに生きたかり避けうるかぎりの雑事を削ぎて

 

<365人の生き方>

■仏教は 闇を照らす 光かも

五木寛之 作家  闇夜、世の中の闇、心の闇、人生の闇)

 

<管理人のつぶやき>

■元旦や 初日を拝んで お参りす 氏神さんと 菩提寺さまへ

氏神様 王歳神社

 

菩提寺 霧窓山 廣雲寺