義母の短歌

98歳で永眠した義母が書き残した短歌です

カテゴリ:自分・生活(六)

丹波古刹15ケ寺霊場 第4番 常勝寺

<短歌集(六)の掲載を終えて>
 昨日までに、義母の手作り短歌集(六)に蒐集された、平成八年十一月から十二月に詠んだ238首の掲載を終えました。

今日からは、短歌集(六)に掲載された238首の短歌を11のカテゴリーに分類し掲載していきます。

 短歌集(六)に掲載された238首の内、1番目に多く(87首)含まれるカテゴリー【自分・生活】に分類した短歌です。

 

<義母の短歌 カテゴリー:自分・生活(六)>

#1499    夢とても嬉しき夢あり世に出せぬ宝持つごと唇ゆるむ


#1500    わが触れて花首折れし一輪のダリヤよ許せと小皿に浮かす


#1502    「身障者ですか」「のようなもんです」友抱え許されている暫しの駐車


#1505    歌を詠む人には細事も我が大事身に一筋の鋼貫け


#1509    シャボン玉のような希望の弾けては又膨らむゆえ生きてゆかれる


#1513    男なら山崎方代真似るかも時折常軌を逸したくなる


#1514    大根白菜たまにきざむに事足りる包丁の刃はなまくらで良し


#1515    濡れ落ち葉踏み来しわれも濡れ落ち葉封書一通投函せしのみ


#1516    深爪の指にやさしき雨の音当分畑もわれを呼ぶまじ


#1517    赤き彩に見放されつつ渋き色着こなしかねいる心は六十路


#1521    湯に浸るまだまだ死なぬぞ此の身体脂肪たっぷり蓄えている


#1522    山住みの首捻じ曲げて珍しむ夜汽車の響き空席の灯


#1523    埒もなきひとりの喜び片足に立ちてズボンの履ける充足


#1526    単純に指折り数えて歌会待つ遠き日夜祭り待ちしごとくに


#1528    荷物にはならぬ喜びこぼさぬよう車窓はきっちり閉ざして戻る

 

#1530    留守電のひらたき声に戸惑いつつしゃちょこ張りて用件を告ぐ


#1531    二時間の後には辻褄合うドラマわれに還らぬ刻をゆかせる


#1534    ひとりいて十数本の男傘忠犬ハチ公主待つかたち


#1535    鳥の胃を借りて暫く宙をゆく木の実のみる夢きっと明るし


#1539    「変身」とひと声掛けて立ち上がるはて何んとしょう戸の外は雨


#1541    用ありて来たりし厨に首かしげ思案の他のリンゴジャム煮る


#1551    洗い髪指に梳かしつ書き流すすかして見ても狭き世界を


#1553    人逝きてわれに残せし憂き自在思いのままに生きよと言うか


#1555    残り菊折り来て挿して頬杖をつきいるショボくれ女は誰だ


#1557    導かれ足踏み入れて詠み飽かず散りしく落葉の命みている


#1559    身を捨てて人に尽くせしこと在りやありとは言わぬあとの沈黙


#1564    名を呼ばれ肩叩かれても思い出せぬ老女に返す精一杯の笑み


#1565    おとろしや後十年は生きる自負有為転変の明日を知らずに


#1569    寝そびれし脳髄なだめる真夜中のテレビに秘湯の白き湯煙


#1570    見た目より淋しがりやの上体に付き合う脚が夜半に疼けり


#1589    脳神経暫く憩え考える用なき大根クツクツ煮込む


#1592    素通りの今日の時間が惜しまれてまぶた垂れ閉ずまでを三十一


#1593    投げし石高処に手応えありしかば沈みし数個をいまは恃まず


#1594    累累とわれのみ刻をもて余すなぞらえて人を恃むべからず


#1596    火の如き歌の友欲し一食や二食抜きても語らんものを


#1598    執着の残る古着も広告も燃せばひといろ人の死もまた


#1603    意味もなく池のフェンス敲きいる今日のまなこは少々暗し


#1604    解らぬこと知ったかぶりの金輪際出来ざることも誇りのひとつ


#1605    張り切ってみても小さな枠の中私は私の道をぼちぼち


#1607    「歌人は時世の風になびく草」根っから靡けぬ歌詠みもいる


#1614    遠くにて空気のゆるる気配して小さき小包届けられたり


#1615    黒豆のさや干すむしろに回覧板声をかけずにこそと置き来ぬ


#1620    常ならぬ熟睡さめて透かしみる時計はいまだ今日を指しいる


#1621    靴履かぬ日は続くべしわが歌を敲いてくれるコンピゥーター欲し


#1624    忽然とこの身煙と消ゆるならそれも又よし美しからむ


#1627    カーデガンのぼたんは下よりはめるべし残るひとつを造らぬ為に


#1628    八年のひとりぐらしに磨り減りし見えぬ心に凹ありかなしむ


#1629    うつつ世のひと揺れ毎に均されて辿りつきたる終生の席


#1631    平がなに書くべしうつの字余りにもうっとうしきに総身が軋む


#1639    わがものにあれども心ままならず照る日曇る日みなもと知らず


#1641    怺えるとう力の失せてこぼし過ぎ泪の枯れて仕舞った女


#1643    行く末の杖にもならぬ孤を抱き視界心界累累と歌


#1644    丸太一本転がるさまに寝てみたし伸ばし折り曲げくぐまりて眠れず


#1649    アクセルを踏めば全き密室に声に出だして吐露せり心


#1650    車降りるたまゆら溢るる感情の哀の部分よ散れ空中に


#1651    慈雨あれば溢れ流るる折あらむ我がにはたづみ乾からびずあれ


#1656    歌は斯くあるべき筈のヘルメット脱ぎっ放しの放埓詠また


#1657    買いしは何時テレビの画面薄れゆく「くたびれました貴方の守りに」


#1661    日昏れには必ず戻ると鐘叩き仏と家に留守を告げいる


#1663    毀れても惜しからぬ値の半端皿求めて埋める心のひずみ


#1665    わが動く範囲の狭さ走行指数一万キロに二とせ費やす


#1669    逝きてわれ世に魂魂の残るなら必ず無限の愛そそぐべし


#1670    桶三っつ洗いし事実と花の種蒔きしを含めて今日の収穫


#1671    ささやかな期待はずれる郵便受喪中欠礼の届く年末


#1674    東京へひとりし行かむは若者の海越えゆくより遙か大ごと


#1675    結局は歌詠む外なし冬籠もり毛糸はあれど編む手は持てど


#1680    持ちつけぬ供連れゆくごと杖持ちて忘れて戻る友が家の背戸


#1681    息絶ゆるごとく灯は消え人声の闇に吸われて酒宴終れり


#1682    狼籍のままに灯を消し夜半さめてまさぐりいるはテレビのリモコン


#1683    夢に聞きし一方的なる饒舌は消し忘れたるテレビにありき


#1691    あり余る私の時間そちらから盗みに来る人芯から欲しい


#1693    暫くを棒立ちとなりおもむろに老眼鏡の店舗に向かう


#1696    心根も口も乾ける静けさに馴れて平気にいる気味悪さ


#1697    人恋うる心いやます隠沼のわが宿訪いませさわりあらずば


#1700    詠む歌のたとえへぼでもみっちゃでも手染めの彩の小さき勲章


#1701    のしの付く清酒一本届きたり男に近き寡婦住む玄関


#1702    肉魚の臭いを持たぬわが厨焼き立てのパンの匂いが踊る


#1703    最高のわが喜びはすんなりと心に沁みる歌詠みし瞬


#1704    リンゴの皮丸く剥くこと稀にもなく先ず八分の一を頬ばる


#1705    よみさしの頁押えてくしゃみひとつ吐きたる後の寒き双肩


#1713    歌を詠む無援の淵に身を沈め刻を忘るる先ずはすこやか


#1714    うたよみのまなこひきよせ澄む藍のゆくとも見えぬ流れ妖しき


#1720    軒外に踏み出す用なく日は落ちぬそれで事足るわが生きくち惜し

#1727    皺伸ばしのクリームひと瓶五千円裡なる女が一瞬迷う


#1728    陽の下に晒せば他愛もなき心昨日の欝に羽つけやらむ


#1729    「二度童子」と人思わずや野水仙一花手折りて野に立つわれを


#1734    わが逝けば滅ぶ外なき此の家への愛着探し命長かれ

 

<管理人のつぶやき>

■ストーブを 出して点検 異常なし 昨日は霜降 季節は移る