義母の短歌

98歳で永眠した義母が書き残した短歌です

カテゴリー:独り・老い(一)

関西花の寺25ケ所 第10番 摩耶山天上寺

 

手作り短歌集に蒐集されている短歌を、11のカテゴリーに分類いたしました。

義母の手作り短歌集(一)巻に掲載された432首の内、三番目に多く(50首)が含まれるカテゴリー【独り・老い】に分類した短歌を掲載いたします。

 

<義母の短歌 カテゴリー:独り・老い(一巻掲載50首)>

#2    会話なき一日終わりて消す灯り闇に重たき秋の雨音


#7    六人の子育てし媼脚萎えて老人ホームに臥すという哀し


#14    一握りの野蕗摘みきて煮つめおりそれで事足る暮らしと思う


#17    媼逝く報い少なき一代なりと葬にたつ人交ごも語る


#18    八十四の媼有金盗られしと泣いて縋れり背さするの


#25    髪染めて雀百までとつぶやけり残り少なき女を楽しむ


#58    幼名で呼びて消えゆく六十年学舎の友皆髪白く


#66    食べきれぬ魚の煮つけ蕗の葉にのせて捨て置く夜の客来て喰め


#75    水は澄み雲ゆるゆると尾根をゆく旅してみたき病む膝をみる


#83    合槌を打てば次第にさかのぼる老いの語りに戸惑うばかり


#88    集いいる人は黄泉路の人ばかり醒めて跡方なき夢重く


#89    ざるの米ひっくり返した戻り道老いても翳曳く幼の涙


#100    新しき話題の如く語り出す空で覚える老いの繰り言


#107    鉛筆を削れば薄き香の立ちて机に長夜を声なくおりぬ


#117    今日のどを過ぎてゆきたるもの想う女のひとりカルシュウム零


#118    唐突に人の訃を聴く昂ぶりの中に悲しき水引き結ぶ


#120    ささやかな安堵得るべく癌健診我より老ゆる人なき中に


#133    誰の待つ夕餉にあらねば没り陽の中を遠出の虚しき安堵


#192    独り居に特権もある陽の入りを羽根持てる如く胸内かるやか


#208    老いひとりを狙う空巣を許すまじ聞き流している警察なおに


#210    賑わえる酒座を放れて座す老いの動かぬ視界にあるは空のみ


#213    ざわめきの酒座を逃れて施錠するひと日の終わりこそと音する


#217    施錠する玻り戸の揺れて残る世のひと日を埋める彩を思えり


#228    錠外し灯りともせばよみがえる空気ひとりの温くみ寒みに


#242    ぬばたまの闇に馴れゆく眼と言わん残り世の路細ぼそと見ゆ


#243    酒座に居て野にある如く黙りいる妻逝かしめし男のひとり


#256    灯りひとつともせるままに出でゆきぬ暗闇さぐるひとりの戻りに


#264    雨の夜落ち葉を叩く紋様のワイングラスのかすかにゆらぐ


#267    静けさに馴るると言えども寒ざむと雨音聴けば人を恋わしむ


#288    夫逝かせひとり住む女等集いきてつましき宴の笑いに酔えり


#292    吾が触れる紙と鉛筆冷蔵庫他に音なき静けさにいる


#293    風船の空気の漏れる如くいてひとりの夜を平びておりぬ


#301    湯豆腐に小さきパックの半分を煮たてる湯気にひとりの夕餉


#305    日の暮れに米研ぐ事をわびしみて求めしお握りみ祖に捧ぐ


#307    白壁にボール投げかくごとくにも頼りなくいる口きかぬ昼


#315    只今と声に出せり闇深く応えなき家の灯りをともす


#327    料理メモ誰が為にとる乱れゆく文字を丸めて篭にほる音


#340    峡の道傘さし歩む静けさに従いくるもの四つ脚でもよし


#347    鳶が蛇くわえて屋根に止まるを見て鍵たしかめる女のひとり


#357    客去りてひとりに広きテーブルに湯呑み二つが冷えて残れり


#358    老人車押すあり水筒揚げるありゲートの老は大きく掌をふる


#359    人声のしきりに恋し冷ゆる夜書読む目鏡又してもはずす


#365    大根を炊けば誰かのいるような鄙びの匂い夜半までこもる


#368    籠る耳かたむけており戸の外に二、三の女等さざめきゆけば


#386    朝刊をひと日の始めと広げても文字を辿らぬ眼は遊びいる


#390    葬り後の夫婦茶碗寡婦となる余生の限り我が傍にあれ


#397    満たされぬ雨の夕昏れいさかいの相手なければ夕餉を早め


#413    オレンジのシャツが似合える老い男は脚病む老女抱きてゆけり


#427    人波のあふれて孤独の街中をよるべなき身の如く歩めり


#428    鉛筆と辞書に便箋反古などがもっとも我に近く住みいる

 

<管理人のつぶやき>

■今日の歌 ビール一口 指をおる