義母の短歌

98歳で永眠した義母が書き残した短歌です

カテゴリー:自分・生活(一)

関西花の寺25ケ所 第10番 摩耶山天上寺 ご朱印

手作り短歌集に蒐集されている短歌を、11のカテゴリーに分類いたしました。

義母の手作り短歌集(一)巻に掲載された432首の内、二番目に多く(82首)が含まれるカテゴリー【自分・生活】(義母自身の事、生活、歌など)に分類した短歌を掲載いたします。

 

<義母の短歌 カテゴリー:自分・生活(一巻掲載82首)>

#33    洗い髪梳きにつつ聴く落とし湯の乱れの調べ闇に吸わるる


#47    コツコツと響く靴音健やかに今日関節の痛み少なく


#50    掌の汚れ心の灰汁を流すかに蛇口にしっこくかざして洗う


#53    草刈る掌鍬ふるう腕汗拭う何時も従きくる私の影も


#61    ひとりとて眼あり耳あり腕もあり歩める脚あるシャンと立ちませ


#62    昨日晴れ今日は曇りて明日知らず心の予報自らにはかれず


#68    長月の心のひだにかくれ住む秘め事はありひそと息吹ける


#95    神経の乱れて触れる心地せり膝の痛みは不意に身を攻む


#139    水も我も器の型に収まれど折り折り飛沫あげたく想う


#144    仮面など持たずと思えど施錠して人には見せぬ己れもありて


#146    女ゆえ寡婦ゆえなどと人並みの劣等感など我がふり捨てて


#153    うしろみる憂いも持たず妻の座に安らぎおりしか四十五年


#157    一匹の蚊に乱される神経のはりはりと細きなど人待てり


#158    カリカリと鼠しっこく歯音立てて脳神経の髄掻きまわす


#159    もの言わず独りある夜に越前岬の暗き岩打つ飛沫を思う


#167    待つ刻の長きに倦みて語りかく弾む応えは同じ思いに


#172    今ここに肩押す人のありとせば地獄の果てまで落ちなん危うさ


#178    しばしの間頭と言うもの空にしてマンガ日本昔話しなど見る


#180    何もなさぬ刻を惜しみて落ちつかず悲しき性よ終わりし農に


#183    女の夢詰めて小袖の眠りいる和箪笥ずしりと幅占めており


#184    うたた寝より醒めて暫しを見廻せりいま聴きしは己が溜め息と知る


#194    我が衣服人めでくれて単純に心明るむおんなが残りて


#197    厨辺に一刻忘るる独り居を女である事変わらずにおり


#201    目に見ゆるもの皆柔し春草の吾に従う如く過去断つ


#207    もの飛ぶ音鳥か木揺れか寝ねられず眼ひらきて闇みるばかり


#209    胸内吹く疾風はありあるだけの灯りともして歌集ひもとく


#215    浮き立ちし祭りの終わり昏れるなか行事の果ての煙見送る


#222    物売りが電話で齢を確かめて先は語らずガチャリと切れり


#234    あれこれと服を選びて無駄な刻過ごす奢りを店舗の軒に


#235    売るとせば二束三文買うときは高き値のつく菊地に臥して


#236    人訪わず電話のベルも鳴らぬ日の白虹寒し血の色さわぐ


#239    水溜まりあわやと除けてまだ少し残る若さに一人で笑まう


#240    秋の陽の流れに写る我が影を茫と見ている魂揺れている


#251    旅をせんか宴げ開くか女等は言葉に酔いて会過ぎてゆく


#261    心地よき眠りを欲りて飲む酒は浮かれもせなく麻痺呼ぶ五体


#262    絶望と言うにあらねどだらだらと醒めてかじれるパンは乾きて


#265    竹三本伐りだす事に意義のあり人の知らざる私の心


#269    饒舌の果てるときなく熟女らは黄昏れ忘れて昔を語る


#275    文書きつつ涙こぼしぬ老ゆる身に夫なく子なき恩師思いて


#277    白菜を数枚剥ぎて切り漬けのままごと染みるも何時か馴れゆき


#282    いたずらに夜を点せる灯り消し自らの姿闇に見つめる


#284    渡り鳥振りかえらずに去ると言う捨て切れぬ想いに人は寂しむ


#289    一枚の運転免許は羽根持ちて気の向くままに我を伴う


#296    エンピツは黒いマントに黒目鏡のっぺらぼうの冬を描けり


#297    傷つきて想いよせくる人に対い強くなるべしうちにもきかせ


#298    しほたれて人に対うときは人は去り明るき花に蝶はよりくる


#299    傘の柄の曲がりたるままさしゆけばおのずとかたむき肩濡らしゆく


#303    目の先に迫りくる冬沈黙の秘み事抱く魔女の如くに


#306    雨けぶる昏れがての道待ちている錯覚なれど脚を早める


#311    思うまま花咲かせゆく雨の日の絵の具と筆をこよなき友に


#316    読む書に小さき虫は動かざり頁繰りなば消えゆく命


#320    醒めきらぬ耳にひたひた細雨音吾頭蓋にも霧と降りくる


#326    止まぬ雨も明けぬ夜もなしとつぶやきを漏らす静けさ唇乾く


#328    無意識に投げ出す手首の皺が知る七十年の良きも悪しきも


#329    生涯に人に語れぬ事もあり黄泉の荷物のひとつと包む


#331    花と人の訃を聴く昂ぶりの数刻をいてかなしみの涌く


#333    呑めぬ筈ないなどひとりつぶやきて満たすビールの冷たく苦く


#334    ささやかな女の奢り千円を余してひと日饒舌に酔う


#336    過ぐるのみかえる来ぬもの風にして花を倒して我歎かしむ


#338    人恋し人煩わし噛み合わぬ話題に醒めて眸は雲を見る


#339    幼子に危ぶまれおり下り坂吾が足取りのぎこちなければ


#342    万歩計結わえて今日は二百歩を知るかもしれぬひと日の終わり


#343    日帰りのうから等ひと日賑わして水引くごとく夕べに去れり


#349    いが燠赤き鞠藻のうごめきて生きあるごとく互いを燃やす


#352    七十路にかかるに無邪気と言われいて隠すを知らぬ単細胞なり


#353    スーパーのテレビに写る女あり汝れと知るまで数秒を佇つ


#364    過ぎ来しのこもごも秘める掌に浮かびくるもの醒めた眼でみる


#369    あかときを醒めて見る夢ひとつあり鉛筆熱く握り直して


#370    霜月の歌会寒し吾が行手遮る壁の厚きを叩く


#384    枯れ枝の岸をすべりて音立てる湯船に腰をうかせるもろさ


#385    ほんのりとガラス戸染める朝茜夢見心地のうつつを醒ます


#389    大根を十本余り洗い終え今日を安らぐ極道となり


#399    限りある命ちろちろ燃え立たせ問いつ応えつ可能を測る


#402    回覧板届ける家に立ちこめる主待ちいる夕餉の匂い


#405    夢に詠み醒めて綴れどおぼおぼと掬う指よりこぼれる言葉


#409    満ち足りる友は花火の明るさに我がやみともし残り火を置く


#410    鍵かけずついまどろみし夢の中救い求める吾が声に醒む


#411    すすき刈る指はすすきに切られおり青くさき指唇にあてる


#416    人を待つ刻のいらだち紛らして反故焼く煙の流れ見て佇つ


#419    したたりに尽くるなく浮くみなわ粒真白きをみて飽きぬ刻あり


#420    一本の鉛筆指を離れずに水泡のごとく文字重ねゆく


#429    そそがれし数多のひとの労の跡皺さえ寄らぬ新聞を束ねる

 

<管理人のつぶやき>

■五七五 誰か決めた知らないが このバランスは 絶妙なり