カテゴリー:自分・生活(八)
手作り短歌集(八)に蒐集されている短歌を、11のカテゴリーに分類いたしました。
短歌集に掲載された378首の内、二番目のカテゴリー【自分・生活】に分類した短歌(84首)を掲載いたします。
<義母の短歌>カテゴリー:自分・生活(八)
#2001 纏うものなべて脱ぎたる真裸の夕陽みずからの茜に浮けり
#2005 腹筋の躍動おろかこみ上ぐるこんな笑いが残っていたか
#2010 泥のつく軍手ずぼっと脱ぐ指の軽さよ魚のごとくに動け
#2013 大空に向かい指にて描きみる隙間だらけの空と言う文字
#2019 世に立たん鎧を脱げば飄々と吹かるる落葉の軽さにいたり
#2023 脱走の本能はげしくゆるる午後茹でいる卵の音痛ましき
#2024 乳母車押して子供を遊ばせし思い出持たぬ母なりわれは
#2025 返事して呉れる人なら誰方でもとはゆかなくて酒の座を立つ
#2032 恙なく生きて生ごみ捨てにゆく髪乱す風なまぬるき夕
#2038 抵抗もなく捨ててゆく夢幾つ生きゆく荷物は軽きがよろし
#2042 現実が夢に続きて握りいる双の拳のままに醒めゆく
#2046 生きものを飼わぬひとりのつれづれに鴉の歌を今日も詠みける
#2049 壺の中の小さな闇の囁きをそのまま閉し買うことにする
#2059 男なら屋台の酒に憂さ晴らす夕べをきこきこ鍋磨きいる
#2067 テレビ消し灯りを消していまひとつ消さねばならぬ昼の雑念
#2070 もしかして郵便受けを探る指釣れぬ釣り糸手繰るに似たり
#2077 肩よせる肩が欲しいと思う日の心機一転さくら見にゆく
#2078 ひとりなるわれに今日あり明日あり花の開くを待つばかりなる
#2079 鍵っ子に似たる思いのひとり食納豆いつまで掻きまわしいる
#2089 湯上がりの赤子のような歌が好き泣くも笑うも天衣無縫に
#2100 竜の髭丹念に抜くわが仕種人は嗤えど茶の木がよろこぶ
#2102 倖せはこの位で良しポケットに零余子一杯心が温い
#2103 人といて水に油の孤独感ひとり草引く野に翳おとす
#2110 手の窪に乗せて食べよと差し出す紫したたる茄子の浅漬け
#2138 すっぽりと眠りに落ちし数分に死界のやすらぎ見たる気がする
#2150 媼われがフランスへ電話かけるなど丹波山家に文明の風
#2157 遠き日の夢が残っているようでラムネの空瓶捨てる気がせぬ
#2158 助手席に買い物袋座らせて残生温しと言わねばなるまい
#2164 媼われを「みいちゃん」と呼ぶ七歳のまなこに映るわれは何者
#2175 出てこないキイより己が度忘れのいまいましくてただ虚しくて
#2178 県名を北から順に寝ね際の脳に広げる列島の地図
#2184 抗がわず慣らさるるなく生き延びしわが根性をわれはいとしむ
#2195 左手を添えて菜を切る左手は何につけても欠かせぬ伴侶
#2196 賑わいの後の虚しさ捨てにゆくビールの空缶あまりに軽し
#2201 立ちみれど為さねばならぬ何もなしひとり通れるだけの雪掻く
#2203 三月の予定の光るひとところ「あきこ先生来迎」の花まる
#2207 美しき空壜出窓の片隅に光を溜めて立つがかなしき
#2208 カルシューム補充に食ぶる干エビの芥子粒程の目に刺されいつ
#2211 仏よりわが目が喜ぶ水仙の黄に仏壇の明るむを見て
#2212 くねくねによじれし心にコート着せアクセル踏めばわれは別人
#2228 何をしていてもゆらゆら揺れやまぬ厄介者を心と呼べり
#2230 こわこわに乾きしタオルの感触を無骨な愛のごとくよろこぶ
#2236 丹念に笹の根を掘り千草抜くその時それは私のすべて
#2245 もの憂げな軽自動車に「さァ今日は大江山まで連れてったげる」
#2271 道楽で歌は詠めぬと身震いぬ三ヶ島葭子の歌人魂
#2278 残りものあっさり捨てて洗う皿何もなかりしごとく光れり
#2279 どっぷりと人に甘えし覚えなく鴉のえんどうぐいぐい毟る
#2282 覚めて先ず見る空模様毎日がお日様まかせの私の暮らし
#2284 嘘のない人生なんてあるものか狐の牡丹の根が引き抜けぬ
#2286 照る日あり曇る日もあるわが声を脳の吐息の色と思えり
#2289 しなやかな夢に棘あるみそひとの峠の坂道必死に登る
#2303 天を指す祈りの象の杉が好き拘りすててすんなり生きん
#2304 あやされいる思いしきりに二時間の老人講座むっつり過す
#2307 生なまの正義派なりしがだんまりを保身のひとつに加えて老境
#2312 用心に持ち来し杖をまた忘れ「お客さーん」と追いかけられる
#2318 噛み合わぬ会話に黙しすかんぽのすいすい酸っぱさ思い出しいる
#2319 企まねどおのず世渡り上手となるシングルライフのそれもかなしき
#2321 侘しさも共に茹で上げ煮つめたる蕗の薹です食べてみますか
#2324 危うかる来し方なべて踏み石に迎えし晩年以外に温し
#2325 どんどの火に爆ぜる稲穂のたまゆらの白き痛みに眉根ひそめる
#2327 湖底めくその静けさこそ得難しとう師の励ましの文字に救わる
#2329 かかりたる罠を逃れし心地かな難解パズルの解けし真夜中
#2331 脚馴らしのつもりが夢中で鍬ふるい膝関節の機嫌そこねる
#2332 電気治療受ける窓より今日も追う一羽の鳶の空載る行方
#2333 祖の想いこもれる畑を守りきれず原野に還さん土に一礼
#2335 向けられしカメラに手を上げとっときの笑顔を作る十秒の嘘
#2336 杖なしに歩める喜び白蓮が呼んでるようで十歩二十歩
#2337 いくばくは美化してつなぐ追憶の連想ゲームに一喜一憂
#2338 身の用の足りる間はひとり住む柵を逃れし羊のように
#2343 するめいか何辺の浜に干されしや平たくなりてわが手にさかる
#2344 かなしみを言葉の器に盛れなくて人語通わぬ草と対き合う
#2345 野のごみに煙立たせて今日と言うかえらぬ時に終りを告げる
#2346 人の意に添いて生くるを良しとせず抗うでもなくひとり草引く
#2347 先ず健康鰯の頭も信心からドリンク飲みて歌会に急ぐ
#2348 利心のうするるとは言え時折は小首傾げる人生そろばん
#2349 くたびれて昼を眠れば何恃む心か空飛ぶ夢に酔いいる
#2350 「お先に」と断る要なきひとり湯に今日を支えし手足を伸ばす
#2355 ほととぎす啼く野にくぐまり草を引く敗者でもなく勝者でもなく
#2360 いさかいの冷たき毒持つ歌好む心の洞に啼く不如帰
#2363 上向いて歩けば小石にけつまずく俯きゆけば明日が見えない
#2369 「おばちゃんの味絶品や」と煽てられ素直にのるも老いの世渡り
#2370 無から有を生み出す文字書く面白さ食忘れても歌やめられぬ
#2375 湾曲な嘘のつけない一本気嬌めなばわれがわれでなくなる
#2376 四分の三の人生越え来たり明日食ぶる一合をキシキシと研ぐ