義母の短歌

98歳で永眠した義母が書き残した短歌です

カテゴリー:動植物(八)

福知山市三和町菟原中 八幡神社

 

<短歌集(八)の掲載を終えて>
 昨日までに、馬場あき子氏主宰の「花林の会」発行の月刊誌『かりん』に掲載された378首を記載した、手作り短歌集(八)の掲載を終えました。
    今日か らは、短歌集(八)に掲載された378首の短歌を11のカテゴリーに分類し掲載していきます。
 短歌集(八)に掲載された378首の内、1番目に多く(93首)含まれるカテゴリー【動植物】に分類した短歌です。

 

<義母の短歌>カテゴリー:動植物(八)

#2002    昼間みし蝶が大きく夢にきて貌とも言えぬ貌が哂えり


#2006    猫が貌を洗うと人の言うなれどたまには泪を拭くかも知れぬ


#2008    「ギャッ」と啼く狐の鋭きひと声に刺されし野径日昏れのおどろ


#2011    媚びるなく振り返るなく冬野ゆく老い猫まさしくわが影宿す


#2012    水族館の魚の孤独に逢いたくてひとりゆくなり尾鰭なきわれ


#2016    鈴つけし猫よりひもじさ怺えいる媚びることなき野猫親しき


#2017    わが野良着につき来し虫よ群離れ生きると言うもたやすくあらず


#2020    てのひらを持つ風が吹く柿の葉は触られたくてざわめきやまず


#2021    吹く風にけしの実悠々ゆれいたりもはや人の目惹く色持たず


#2022    突然死のごとく知られず枯れいたるもみじのさみしさ他人事ならず


#2026    枯茎の二尺に足りぬを登りつめ下りられなかった毛虫の木乃伊


#2028    前の世は仲間であったかも知れぬわれを見ている魚の目玉


#2029    みみずにも生きて楽しき瞬ありや目も耳もなく闇をうごめき


#2030    わが脛を樹木と紛うや蟻ひとつ登り下るを暫しは許す


#2031    見の限り人影のなき野に聴けり谺とかえる鴉の声を


#2035    山鳩の真夜ひとしきり啼きたつるは子鳩に死なれし母かと思う


#2036    野良猫になりきれずいる迷い猫生きる道問う生きものの声


#2037    宿命のあごまだ稚きかまきりのすんなりたたむ羽美しき


#2039    定着の土を選ばぬ風媒のバーベナ空地に自が春謳う


#2041    椿の実捥ぐには惜しき艶持てり椿の意思に任せ置かん


#2044    雑草に混るトレニア今少し背伸びして咲け思いを遂げよ


#2045    打ち返す芽生えしばかりの草の根の白く長きがほぞの緒に似る


#2050    見るまじき鴉の秘密か開けし口喉の奥まで赤く妖しき


#2073    飽食の寺の黒猫金いろに光る目細め煮干をまたぐ


#2074    「人生は渋くて辛くていやなもの」頷きうなずき鴉が歩む


#2087    地を這う風踏み越え走る野良猫が何思いしかはたと振り向く


#2091    「母ァ母ァ」と騒ぐな子鴉お前とていまにひとりで生きねばならぬ


#2092    明日のなきアメリカ芙蓉惜しみなく燃す情念のほむらひとしお


#2097    手の泥をモンペにこすり捥ぎくれし日昏れのトマト熱溜めいたり


#2098    逃げるなどとても出来ないかたつむりその道ゆくな車が通る


#2099    やせこけし母の乳首を奪い合う仔猫の尻尾なぜか天向く

 


#2108    二度までも風雨に倒れしコスモスの咲かねば終れぬ花の小さし


#2109    羽化出来ぬ蛹のごとき焦り持ち雨降り止まぬ窓見据えいる


#2118    植木屋の好みに刈られし庭樹木の新芽は新芽の想いに伸びる


#2120    愛しまれぬことは承知の濡れ鴉贄を咥えてトタン屋根すべる


#2121    まく餌に鴨も混りて群るる鯉飼われいるもののかなしき平和


#2132    何程の飢え満たせしや仔連れ猪みみずを堀りし大穴いくつ


#2134    夜の蜘蛛音も立てずにわが影の首すじよぎれば心地良からず


#2139    破れ蓮の茎なお墓標のごとく立て根は新しき芽を育ている


#2140    脱ぎ捨てし軍手に芽吹く草の根の網目貫く生きの力よ


#2143    みずからに充ちて落ちしか瑞みずと枝下範囲に輪を描く椿


#2144    花散りて結ぶ小梅のあまりにも青く危うき命のふふみ


#2152    竜の髭刈ればとびだす青い実が同じ青さの空をみている


#2153    騙すなどゆめ思わねどわがともす点滅灯に蛍群よる


#2154    猿のボス交通安全確かめて群渡すとぞ聞きて畏るる


#2159    青白き山蒟蒻の花の寂び惹かれてやまぬわれも山姥


#2160    人ならば如何なる策もて抗議せん巣を暴かれし蟻のふためき


#2161    横に這う白煙しろ熊はた馬にそぞろ麒麟となりて昇れり


#2162    青年期にいまし移らん子鴉のすんなり伸びしぬばたまの羽


#2166    夏百合の花びら抜け落ち魂のごとき雌蕊がギラリと光る


#2168    「おばちゃんがあんまり草をけずるから生きてゆけぬ」と野蕗が嘆く


#2171    血の絆の紐はゆるめになど思う咲くポーチュラカの色もさまざま


#2177    短足の蜘蛛の抱えるボールペン丸木の橋を渡る危うさ


#2181    咥え来し柿の実転かし胸を張る鴉よ汝れもひとりぽっちか


#2182    みみずかと一瞬思いし蛇の子の消えし草むら温とくあれな

 


#2183    引力に逆らいガラス戸這い登る雨蛙の指生きものの指


#2186    かたくなによろえるごとき石榴の実ふいに弾けてさらす真実


#2190    宿無しの仔とは知らずに生れ来し仔猫の住みつく床下の闇


#2194    万両の木に爪立てる空蝉の生きあるごときをそのまま活ける


#2204    胸朱き小鳥芝生に遊べるをあずかりものの景かとぞ見る


#2209    餌を食む外なきさびしさ乳牛は瞬きもせずにれがむばかり


#2213    空壜のラベル剥がして一輪の残り椿をひとりの華に


#2215    木の芽摘む手にとびのりし雨蛙一瞬ひやり死者の冷たさ


#2224    鍬先に塒追われて身ひとつの軽さに走る百足の転居


#2225    古縄のごとくとんびに攫われし蛇空中で何思いいん


#2226    丹精の花の開くは巣立つ子を送るに似たり咲くまでが華


#2231    芥子坊主河童の頭に似たる実がぷるんと揺れて種こぼしけり


#2232    ゆく雲に溜息ひとつあずけ置き羽の破れし蝶を見守る


#2234    来年は花になれよと蜩の亡骸花の鉢に埋める


#2238    礼服をまとえるごとく乱れざる蝉のむくろを裏がえしてみる


#2239    天粕を抱えて動かぬスーイッチョその皿二日洗えずにいる


#2240    目の捕え手の届かざる零余子づるぷらりぷらぷら実を泳がせる


#2243    求め来しカサブランカの球根を姫を寝かせるごとく埋める


#2244    送るべき人皆送りしわが軒に燕のかえらぬ古き巣ひとつ


#2246    霜月の大江の山に遭う蝶よ汝れはも浮世避けるひとりか


#2248    何程の食得たりしや夕陽浴び背な丸めいる野良猫親仔


#2253    わが植えし山茱萸の実の五つ六つ持ちしことなきルビーにまさる


#2255    逞しく母超え太る雄仔猫二ひきが母猫はさみて眠る


#2269    紺碧の空を知らずに闇に住むもぐらもときに日向ぼこせよ

 

#2273    夕茜背に負う猫の耳透けりそんな切ない目をしてくれるな


#2287    上品にひとつ咲くよりわっと咲く中輪のばらわれに親しき


#2292    茗荷の子探す繁みににっと笑む不登校児のような紅茸


#2293    夕立をざんざん浴びて甦るもう後のない紫陽花の毬


#2294    衰えて忘られゆくを諾えり色失いしあじさいを伐る


#2295    羽化遂げし蝉がじわじわ羽ほどき命整うまでの四時間


#2309    まなさきの弱肉強食けうとかり仔猫の咥える蛙が動く


#2314    かまきりのあたら保護色徒となりわが鍬先にあえなく果つる


#2315    絡まれし木の痛みなど知らぬげに美男かずらの実は輝けり


#2342    恋の時季忘れし猫がぼってりと太りし首の鈴鳴らしゆく


#2353    くちなわに今ある喜びあるらしき背筋躍らせ草むらに消ゆ


#2354    張り終えし巣より逆さに天覗く蜘蛛のみている見えない明日


#2358    疎開の子呼び戻すごと荒れ畑耕し植えゆく秋の草花


#2368    こぼしたるミルクに寄りて動かざる蝿の恍惚見逃して置く

 

<365人の生き方>

■リーダーは 150キロで 疾走せよ 60キロでは 追い越しされる
安藤忠雄 建築家)