#201-210 目に見ゆる・・・
<義母の短歌>
目に見ゆるもの皆柔し春草の吾に従う如く過去断つ
詣でとは従いゆくのみ坂下の出店に心馳せし幼日
足許に落ちていた一銭嬉しかり使う使はぬに心ふるえし
風除ける厳にも似て祖父の愛貧しき幼を支えくれしが
廃屋の壁這う蔦の千切れ千切れて風に吹かるる解体の日
川風に吹上られし花吹雪信号待つ間の虚空を踊る
もの飛ぶ音鳥か木揺れか寝ねられず眼ひらきて闇みるばかり
老いひとりを狙う空巣を許すまじ聞き流している警察なおに
胸内吹く疾風はありあるだけの灯りともして歌集ひもとく
賑わえる酒座を放れて座す老いの動かぬ視界にあるは空のみ