#101-110 針持たぬ・・・
針持たぬ夜なかりけり縫い直し繕い物に余念なき頃
飼われいて時折り家出する猫の何を恋うるか野生のように
お守りを成田不動の神域に戴きし亡夫御利益受けず
夾竹桃己れ育くむ陽を求め繁り逃れて丈高き花
枯紫陽花もやす束の間声のなき悲鳴にも似て炎は上がる
窓明かり及べる庭に夏百合の地這う闇にほの白くゆれ
鉛筆を削れば薄き香の立ちて机に長夜を声なくおりぬ
畳這う馬追い掃除機に吸い込めり生き確かめる夜の気紛れ
我が戒名今だ刻まぬ夫婦墓さびしからずや地下なる人は
メダカ等の流れにさからい泳ぐ様進むと見えて流されもせず