義母の短歌

98歳で永眠した義母が書き残した短歌です

カテゴリー:自分・生活(九)

福知山市多保市 天神社

 

<短歌集(九)の掲載を終えて>
 昨日までに、手作り短歌集(九)の掲載を終えました。
    今日か らは、短歌集(九)に掲載された228首の短歌を11のカテゴリーに分類し掲載していきます。
 短歌集(九)に掲載された228首の内、1番目に多く(53首)含まれるカテゴリー【自分・生活】に分類した短歌です。

 

<義母の短歌>カテゴリー:自分・生活(九)

#2383    暁闇の空にきらめく星に対き双手合わせるわが誕生日


#2386    われに言う声にあらねど人の声聞くはよろしも耳が喜ぶ


#2391    借りものの翼のコート脱ぎ心豊かに炬燵にもぐる


#2392    冬の爪伸びやすくしてやわらかき指は拒めり春の畑を


#2393    愛らしき女であるより逞しき母とし生きて悔いは残らじ


#2399    病院のベットを知らぬ八十歳一つ覚えて二つ忘るる


#2405    自我失せて無心にお茶をもみかえす耳に涼しき鴬の声


#2407    花菱草の花も閉じたり帰らんか明日はあしたのお天気まかせ


#2408    片足を八十路にかけし唇に紅ひき添えて握るハンドル


#2409    今ははや時効となりし過去形の告白ににんまり聞きいる八十路


#2414    萱を堀り笹の根を抜き拡きたる三百坪はわが良き伴侶


#2419    起ちても雨屈みても雨落ち着かぬ土の匂いの沁みこむ此の身


#2423    夏祭り酔えぬ女が酔いどれに艶歌きかせて昔に酔えり


#2426    わが作るわが小世界人の目にどう映ろうと欝の影なし


#2443    旅に出る体力失せしも又良けれ運否天賦と畑に屈む


#2450    みみずにも父母ありや埒もなき想い広ごる日昏の畑


#2455    歳月の流れいつしか立ち向う側よりわれを傍観者となす


#2460    待たれいる充実感に四十キロ握るハンドル心のゆりかご


#2469    ロボットの歩みさながら膝関節調え踏み出す十歩二十歩


#2471    母の日のカーネーションに銀杏葉を伴侶の如く添えて愉しむ


#2475    俗に言う鬼の撹乱臥しこもるわれ訝るや老鴬の声


#2476    人目にはタフで陽気な八十歳愚痴は申さず詠むまろき歌


#2478    目が意思に動きて憚る何もなきひとり暮らしの重さと軽さ


#2479    歌なくば虚しかるべしわが余生思いつくまま目に留るまま


#2483    子の歳に近き歌友に囲まれて何時しか古き語り部となる


#2504    自のみ知る心の動き歌なくばわが目に光差す日あるまじ


#2505    乾ききる心にやさし自然体今日も草分け摘む蕗の薹


#2518    慈なく八十路を生きて黄の信号無視せず待つにようやく馴れる


#2522    隣り家の主の釘打つ確かなる音頼もしく聴こゆる晴天


#2527    三猿を決めこみふんわり生くるのも思う程にはたやすくあらず


#2531    荒れ畑の草引き終えて腰下ろす甲斐なき勝利得たる思いに


#2538    心地良き夢の切れはし手に掬う水にかも似て失せゆくばかり


#2544    われ拒むことなき土の親しさよ古着纏う思いに今日も


#2549    視野狭く生くるもわれは回る独楽自然を友とし飽きることなく


#2550    掘り出され踠くみみずに土かける人なるわれの指無意識に


#2569    まつぶさにわれのひと世を知る山の声なき声を時に怖るる


#2571    労勤を常とし生きて晩年に対き合う歌の師は広辞苑


#2572    喜びは歩いて来ないさはあれど探しにゆく程飢えてもいない


#2577    たんぽぽの「ポポポ」と笑う岸刈りかね黄昏れ時まで鎌休ませる


#2578    ねんごろに調えし畑眺め立つ此の充実感われの生き甲斐


#2579    文明の光に凡そ遠けれど住めば都よ水美味き里


#2580    容赦なく迫る衰え振り払い握る手鍬は髪膚の一部


#2581    鎌あてし指より滴る鮮血に脳の機能が一瞬とまる


#2585    働けと親の授けしてのひらの厚きに今日も握る鍬の柄


#2590    今はもう日陰のやわ草ならぬわれ「無茶するな」と人の言うまで


#2594    半日を土に膝つき戻り来て呑む冷却水美酒に勝れり


#2596    飛べぬ鳥ヤンバルクイナの子離れをしゅんと見ている深夜テレビに


#2597    腰痛にやむなく籠る晴天の時がじんじんわれ置きてゆく


#2598    人生の九つまでが歎きとう柊二の歌に頷きうなずく


#2599    度忘れを悔めば「おばちゃんそれ以上しゃっきりされては俺らが困る」


#2600    鎌当てる指を鋭く切るすすき汝れの根性見届けましたぞ


#2605    宵やみを締め出し鍵かけ口遊む人には聴かせぬ遠き恋歌


#2606    隠せざる齢を映す鏡伏せ研ぎ鎌握れば十若返る

 

<管理人のつぶやき>

■早いもの もう梅雨入りと Net書く