義母の短歌

98歳で永眠した義母が書き残した短歌です

カテゴリー:自分・生活(四)

関西花の寺25ケ所 第21番 當麻寺西南院

 

<短歌集(五)の掲載を終えて>
 昨日までに、義母の手作り短歌集(五)に蒐集された、平成八年九月から十月に詠んだ238首の掲載を終えました。
 引き続き、短歌集(六)以降の掲載をしていく予定ですが、今日から少しの間、短歌集(四)に掲載された238首の短歌を、カテゴリー毎に分類し掲載していきます。

 短歌集(四)に掲載された238首の内、1番目に多く(85首)含まれるカテゴリー【自分・生活】に分類した短歌を掲載いたします。

 

<義母の短歌 カテゴリー:自分・生活(四)>

#1022    ゆだね置く人のあらねど避けられる限りの雑事除けてわが生く


#1025    衝動買いの春のセーター束の間の充足あれば悔ゆるは愚


#1027    不器用に生きて来しとは思わざり昼のコーヒーゆっくりすする


#1028    とりあえず今日の終わりの句点うち深夜放送なんでもよけれ


#1029    ねぎらいの言葉聴くこと永久になき歌に執して足れる不可思議


#1032    落ち込むもはやきが起つもはやきなりなまじ媚びざるうた詠みゆかな


#1038    二年前の髪の毛一本伸びぬまま挟まる頁をねんころに読む


#1040    眼のうろこぽろり剥がれて歌かるし桃栗三年独り居八年


#1046    もろもろの思いはあれどかにかくに安けき老後賜びしを謝する


#1048    歌詠みの遊びと見ている眼差しにことさら明るく手を振りやれり


#1049    人様の思惑気にしてみしとても困った時の足しにはならぬ


#1053    私を必要とする人探しに出かけてみんか雲の去りなば


#1054    引き取りて貰えしことを良しとせん織機繋ぎし捻子棒叩く


#1057    開凾の忘らるる日もあらずやと怪しみにつつ投函したり


#1058    元気かと老いたる人にいたわられかえす言葉の突差に出でず


#1061    世に起たむ鎧を脱げば飄々と吹かるる落ち葉の軽さにいたり


#1062    クロッカスの花閉ずる夕静かなる充足はあり泥の手洗う


#1064    三っの鍵それぞれ異なる音を持ちわが守られつ将縛られつ


#1066    とろとろと眠りに落ちし数分にサスペンスドラマの二人死にいき


#1070    とみこうみ彩を合わせる彼岸供華生きとし生くる侘しさも挿す


#1072    避けきれぬ会席ひとつに身を連ね水泡を掬う虚しさにいる


#1077    戻り来て厨にたてり一度とても人の手になる夕餉に遭いたし


#1079    三人子はまだ幼くてわが歌集読む夫のいる絵のような夢


#1082    てのひらを開きて視つむる生命線どこまで信じてわが安らわむ


#1083    完璧を目指しつ崩るる一角の奇妙な快楽いびつも良からむ


#1084    口挟みて何がどうなるセーターの毛玉まさぐる指の呟き


#1089    カレンダー数字のみなる淡泊の艶も衒いもなきが良ろしき


#1099    草見れば指が勝手に動くゆえ蹤きゆく他なし五尺の体


#1101    みずからに農解き籠ると決めしかど半日保たざり野着引き寄せる


#1102    手を合わせず向き合う野仏青葉蔭聴かぬ貌なりわれも願わず


#1110    終わる花咲きいずる花命ありて儀式のごとく米をとぐなり


#1113    しがらみに歌会ひとつ見送りて乾く心に読経は長し


#1114    誰よりもさむき心を今日は持ち冷やし中華のパック買いぬ


#1116    悪に遊ぶ隠れ心も稀れまれに謀りて善人ぶるにはあらず


#1117    鎌当てし指より滴る鮮血を美しと視つ滾る命よ


#1118    曇天を飛び交う鳥の影もなし草刈る鎌音途切れがちなり


#1120    鳥の声今日艶めきて聴こゆるを鎌置きて仰ぐ心豊かに


#1121    手の指はあれも此れもと忙しくて足もなずきも蹤きゆきかねる


#1123    闇の匂い心の隅にひそむこと知られてならじ紅引き直す


#1124    見ゆるもの夕べの彩に移りゆきうつそみわれのみ取り残さるる


#1126    思い出は仄かに白き帆を張りて眠りに落ちん狭間にゆるる


#1128    退会の記念と賜びし花みずき生くる土得てわが丈超せり


#1132    奔放に半日すごし戻り来て常なるひとりの夕餉も良けれ


#1133    新生姜素直にしそに染まりゆくもはや何にも染まるなきわれ

 

#1134    求め来し木魚叩きて死者を呼ぶわが手を合わす唯一の仏


#1135    予定になき按摩機求めし空財布バッグに収めて悔いは残さじ


#1138    蕗をたき山椒煮つめるわが厨日々是精進料理の匂い


#1139    草引きたきお指と戻りたき足を納得させる時雨来たれり


#1143    跳べるだけ跳ばせてやれば良いものをビニール袋つい追いかける


#1144    ちまちまと地球の表面削りゆき荒れ地に花を咲かせる女


#1145    四面楚歌の時代もありしが晩年の此処は浄土か壁などあらぬ


#1146    欲得もなく戻り来て冷水に手足濯げば明日がみえる


#1150    過去に持つ汚点幾つか捨場なく包めどつつめど折りふしの欝


#1151    仏にも鬼にもなれず凡凡と胡瓜刻めり長梅雨明けて


#1156    「後家寡婦」とう言葉を遠き死語となしグレイ明るくわれは独身


#1160    面上げて平然とゆかん残り世の平らと思わぬ坂道なるも


#1161    手を濯く池面の波紋拡がりて苦渋持つごと貌ゆがむなり


#1163    恋のうたかけらも持たねたっぷりと夢を操る七十二歳


#1164    バッグ忘れわが乗れざりし観光バス醒めて思えば死者ばかりなる


#1166    目の高さの生き諾いて送る日日気随にもえて無気力ならず


#1170    うた詠みと絵描き肩よせ視つめいる蟻の巣造り思いは異なる


#1171    身ひとつを殻に仕舞える蝸牛山崎方代ふとも思えり


#1176    残されてこぼせし泪に芽を吹きし歌とう魔の花咲かせてみんか


#1180    伐るまでの未練心も残り火も消えて八つ手のひと掬いの灰


#1182    外は雨双膝抱えあご与け企みひとつ象なしたり


#1188    乾きつつ残れる疲れに半日を眠り続けてなお茫といる


#1194    かくれんぼうの鬼のごとくにひとりなり岸を畑をゆきつ戻りつ


#1196    よじれつつ太れる藤のごとくにも容易く深めし皺にはあらず


#1199    見るは良し聞くもよし言わ猿になりきれずいて唇押える


#1205    気象予想に傘のマークの失せし朝とみに輝く太陽眩し


#1208    寝ねがたく吹くハーモニカに童謡のリズム案外複雑なりき


#1209    装飾のきららは要らぬ文字盤のはっきりみゆる掛時計探す


#1210    油蝉まづ啼き出でて蜩の和するにひとりの耳傾ける


#1212    昨夜見たる夢やおぼろに朝の卓トマトは赤しはちきれるまで


#1213    見えぬ戸を押し開くごと墓地に入り一寸伸びたる草の芽を摘む


#1214    所有権はまだわれにあり高速路設置の杭立つ畑の草引く
#1215    何得んと欺くまで土に執するかおゆびの力かたかたゆるぶ


#1217    帰らんか早戻るべし二度三度誰をうながすとわが独り言


#1228    啄木鳥の木を攻めつつくさまに似て又起き上り握る鉛筆


#1230    紅さして気分転換試みる麦藁帽子に女を隠し


#1231    夜盗虫引き千切りたる指洗い女の貌してものを刻めり


#1237    襲い来る睡魔に耐えて待つ五分馬場あき子女子選歌の放映


#1247    今日われは男の目もて水色のTシャツ似合う友を見ている


#1248    投稿詠わが手離れて歩み出すポストにかそけき音たてし瞬


#1255    「まず健康」黄金なにせん汗の滲むもんぺを洗う今日すこやかに

 

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