義母の短歌

98歳で永眠した義母が書き残した短歌です

カテゴリ:自分・生活(三)

関西花の寺25ケ所 第15番 岩船寺 ご朱印

 

 昨日までに、短歌集(ニ)に掲載された280首の短歌を、11のカテゴリーに分類し掲載しました。
 引き続き、短歌集(三)に掲載された308首の短歌を12のカテゴリーに分類し掲載していきます。


 短歌集(三)に掲載された308首の内、1番目に多く(102首)含まれるカテゴリー【自分・生活】に分類した短歌を掲載いたします。

 

<義母の短歌 カテゴリー:自分・生活(三)>

#731    垂乳根の胎内にいるやすらぎに視界狭めて畑にくぐまる


#732    凡庸に過ぐるがひとりの保身術心平らに畑打ちて足る


#736    何喰わぬ貌もて生きる七十歳夜叉も仏も身に棲まわせて


#745    なぐさめて欲しなど露も思わざり爪に染む泥無心に洗う


#746    こころ処を探り給うな澱みなく澄むなど吾れも夢思わなくて


#751    老鴬と呼ばせてなおも澄む声の斉藤史女史然り澄むならん


#758    閑人と言われても良し此の橋にものや思えと風に吹かるる 


#764    ふうわりと眠りに落ちんたまゆらに投函忘れしハガキが舞えり


#765    腹ひとつ満たすに刻のひときざみ生きるに足らう飲食重ねる


#772    コーヒーの香りたのしむ朝の卓「誰か飲む人いませんかモシ」


#777    此れの世を妻母祖母と生き継ぎて日々を新たにいまあるひとり


#778    起き臥しの畳八枚僅かにも温みを持てり生きて散らかる


#779    人の世の盛りを若さと決め給うな古稀踏みわけての喜びもある


#790    太陽をしみらに浴び来てそそくさとグルメに遠き昼餉に足れり


#793    乾電池変えれば活きいき刻きざむ時計のようにはゆかぬ吾が脚


#794    熱湯に蒟蒻ふるわせ牛蒡そぐ戻る誰かのあるがに夕方


#797    家事うとくなりつつおんなデトルトの味にも馴染めず糠床混ぜる


#803    引く草の見える間は戻るまじ得体の知れぬ日昏れの泪


#808    ふくらます風船指につつきつつやわくはなれぬ生え抜きの性


#809    こともなく刻の過ぎ行く雨の日の節目のごとく重ねる飲食


#810    纏いつくしがらみ払うがごとくにも日がな小鍬に草けずりいつ


#813    憚らず叩けるものあり息荒げ打ちこむ杭のゆがみて起てり


#814    なまなかに本音を吐かぬ性なりとコンピューターに見抜かれいたり


#820    初弘法出店にかまけ詣でずに戻りし思いでわがひそかごと


#821    嫁ぎ来し荷物のひとつ花柄の羽織着物の醒めざる眠り


#823    とりもちのねずみもわれも騒然たりこの家の小さな事件のひとつ


#824    手を合わすたまゆらよぎる迷いあり詣でて何を祈らむとすや


#831    騙しきれぬ己が心をなおだまし闇に紛れて眠らんとする


#832    ぬるま湯にどっぷり浸かり憂きことを聴き留めし耳ねんごろに洗う


#833    わが住みてこの家のいのちの灯はともり軒の花鉢季を違わず


#834    思いきり四肢を伸ばして性別の淡くなりつつひとりの眠り


#837    紛れなき素顔のわれを映す窓拭いて何を消さんとするや


#838    うつつとは関わり持たぬ時空にて醒めてみる夢煙りのごとし


#839    金もなく切符も持たず乗らんとする列車のドアの開かざる夢


#840    目を凝らしもの思うとき天井の節穴突如渦巻き揺れる


#851    食欲は思案の他にて欠かすなき飲食されど美食にあらず


#854    欠け皿に似たるか我が生き使うならまだ道はありかそかある自負


#860    目を曳きし冬のセーター求めきてひと日ふた日の心足らえり


#863    何守るわが命かと茫たれば振り上げし鍬崩れて落ちる


#868    絹の糸流るるごとく沁み透る魔の水に落ちゆく眠りの迷路


#869    バレリーナとも花ともくらげの游泳を水族館の暗きに飽きず


#874    諸もろの芥積み上げ放つ火に焔のあげる滅びの凱歌


#875    火の降るとも走れぬわれの歩みがなか時雨無情に髪濡らしけり


#876    ポケットの小さな闇にしのばせる鍵の子守のような鈴の音


#877    畑土に触れざりし日の悔い煽り夕べの風の雨を連れくる


#879    音絶えてひと日の労に瞑りいるうつそみわれは脆き物体


#881    月末の支払い終えて嵩低き財布にほっと息吹きかける


#882    泥のつく軍手脱ぐ手のほの温し庇われいると束の間思う


#888    女男の刃の微妙に合わぬ握り鋏仲人なすがにしつこく研ぎやる


#889    うたた寝の夢しどろなりがぱっと醒め昼か夜かとまずは窓みる


#892    あるがまま低きに向きて水はゆく逃げ場を持たぬわが冬籠もり


#895    わが武器は沈黙なりしこれ程の冷たき否定の又とあろうか


#904    温めし楽しみひとつ過去となる疲れを土産の旅ゆ戻れり


#906    爽やかな目覚め愉しむ些事ながら外出の用事ひとつ持つ朝


#908    次の世もおみなと生まれて悔ゆるなし願わくば強き四肢賜えかし


#910    約束を破らぬ性がわが身上みぞれの舗道ひたすら走る


#916    声落としひとりも良けれと囁き合う無夫のふたりに病はあるな


#917    飲みさしの冷たきコーヒー飲み下し無理に瞑れど明日が見えぬ


#919    さきいかを肴に地酒をなめている仏の他に知るものはなし


#920    熊笹の繁りをみれば寿司ひとつ包みてみたし昔主婦なる


#924    残りものようやくつきて新しき飯たく匂いに厨明るむ


#925    てのひらの温みに指を庇いつつもどる野径にたつ群雀


#926    曖昧な会話は要らぬ脳天をぐさり貫く歌評の欲しき


#927    そこばくの塩気に足りて白飯の今も昔も変わるなし味覚


#929    身の枷のなべて解かれし老坂のかそけかる華歌とう魔もの 


#931    身に重き来しの歳月心処に氷室抱くも峡捨てがたし


#934    改めて花よもみじと騒ぐなしありのままなる生きの循環

#936    手強くて尤も脆き自らを標的となし生きんか残り世


#937    ひめやかな祷りのごとき黄昏の天の沈黙われの沈黙


#939    見送るに慣れてしまらく立つ傘の露打ち払う夕暮れの寂


#943    大切な封書ぱくりと呑むポスト此れより先は汝が責任


#945    戯れに「遺書」としたため財もたぬわが旅立ちに書くこともなし


#948    魂のうつそみ抜けて彷徨うか今宵は文字を拾わぬまなこ


#949    黙々と茶漬けに事足りてすこやけき命いとしむ理由は要らぬ


#952    積み上げし苦労の実り見ぬ人に生きて泪をこぼし参らす


#953    噛み合わぬ話題はぽんと抜くビールの泡に紛らす術も知るなり


#954    足裏の交互に地を踏むと言う単純にして尊き動作


#956    じぐざぐに落ちゆく眠りつけ置きしテレビドラマの終末知らず


#969    ハンドルを握れば確かに若がえるまだ大丈夫後十年は


#975    嫁妻母なべて解かれし孤の世界流離はときに愉楽へ続く


#978    突進型行きはまづまづ戻りに迷う持って生まれし方角音痴


#979    いつしかに人の忘るる古池の無縁仏に似たる静もり


#981    格別に金に執することもなく時折残高確かめいたり


#982    食いつめてと言うにはあらず田はすべて処分なしたり許させ給え


#985    恍惚の人のごとくに利を産まぬ地の草引くそれだも待たるる


#986    どっしりと女の匂い籠らせる和箪笥無用の長物となる


#987    辿るべき道を辿りて七十路の案外明るきひとり住みなる


#988    ほがらかなる春陽の下に古稀過ぎてふと戻りたき女の世界


#993    女三界に家なしなどと戯け言三棟の家屋我が持て余す


#995    膨らみし餅の空洞透かしみつひとつのものはひとつでしかない


#998    身構える要なきこたつにじんじんと勝手に過ぎゆく刻を惜しまず


#1000    書き留めし言葉息づく紙切れの狼籍極めつあやなす語わら


#1003    贈られしピンクのはんかちしげしげと大正の女戸惑いいたり


#1004    追うからは日高川なる蛇ともなれ紅ひきそえて書房へ走る


#1007    凝らしみるほどに遠のく歌の奥眠る他なし読むにも疲れ


#1009    叶わざる労なきごとし湯の中に伸ばせば脚の痛み覚えず


#1010    やり場なき悲しみもあり生きる自負崩えなん朝の紅き山茶花


#1011    湧きいずるかたちなきもの歌い上げ解って欲しと強いては言わぬ


#1013    人妬む心湧かぬをうれしみてこれにて足れりと思うてもみる


#1014    怠惰にはつい慣れやすく立ち直る気力湧くかと春を怖るる


#1018    絶叫型押さえて詠めば物足らず塩気抜かれしお粥のような


#1020    ひとり言ふいに明るくとび出せり歌集の原稿まとめし抜殻

 

<管理人のつぶやき>

■麦畑 頭をよぎるウクライナ

昨日のウオーキング中に撮影