カテゴリ:自分・生活(三)
昨日までに、短歌集(ニ)に掲載された280首の短歌を、11のカテゴリーに分類し掲載しました。
引き続き、短歌集(三)に掲載された308首の短歌を12のカテゴリーに分類し掲載していきます。
短歌集(三)に掲載された308首の内、1番目に多く(102首)含まれるカテゴリー【自分・生活】に分類した短歌を掲載いたします。
<義母の短歌 カテゴリー:自分・生活(三)>
#731 垂乳根の胎内にいるやすらぎに視界狭めて畑にくぐまる
#732 凡庸に過ぐるがひとりの保身術心平らに畑打ちて足る
#736 何喰わぬ貌もて生きる七十歳夜叉も仏も身に棲まわせて
#745 なぐさめて欲しなど露も思わざり爪に染む泥無心に洗う
#746 こころ処を探り給うな澱みなく澄むなど吾れも夢思わなくて
#751 老鴬と呼ばせてなおも澄む声の斉藤史女史然り澄むならん
#758 閑人と言われても良し此の橋にものや思えと風に吹かるる
#764 ふうわりと眠りに落ちんたまゆらに投函忘れしハガキが舞えり
#765 腹ひとつ満たすに刻のひときざみ生きるに足らう飲食重ねる
#772 コーヒーの香りたのしむ朝の卓「誰か飲む人いませんかモシ」
#777 此れの世を妻母祖母と生き継ぎて日々を新たにいまあるひとり
#778 起き臥しの畳八枚僅かにも温みを持てり生きて散らかる
#779 人の世の盛りを若さと決め給うな古稀踏みわけての喜びもある
#790 太陽をしみらに浴び来てそそくさとグルメに遠き昼餉に足れり
#793 乾電池変えれば活きいき刻きざむ時計のようにはゆかぬ吾が脚
#794 熱湯に蒟蒻ふるわせ牛蒡そぐ戻る誰かのあるがに夕方
#797 家事うとくなりつつおんなデトルトの味にも馴染めず糠床混ぜる
#803 引く草の見える間は戻るまじ得体の知れぬ日昏れの泪
#808 ふくらます風船指につつきつつやわくはなれぬ生え抜きの性
#809 こともなく刻の過ぎ行く雨の日の節目のごとく重ねる飲食
#810 纏いつくしがらみ払うがごとくにも日がな小鍬に草けずりいつ
#813 憚らず叩けるものあり息荒げ打ちこむ杭のゆがみて起てり
#814 なまなかに本音を吐かぬ性なりとコンピューターに見抜かれいたり
#820 初弘法出店にかまけ詣でずに戻りし思いでわがひそかごと
#821 嫁ぎ来し荷物のひとつ花柄の羽織着物の醒めざる眠り
#823 とりもちのねずみもわれも騒然たりこの家の小さな事件のひとつ
#824 手を合わすたまゆらよぎる迷いあり詣でて何を祈らむとすや
#831 騙しきれぬ己が心をなおだまし闇に紛れて眠らんとする
#832 ぬるま湯にどっぷり浸かり憂きことを聴き留めし耳ねんごろに洗う
#833 わが住みてこの家のいのちの灯はともり軒の花鉢季を違わず
#834 思いきり四肢を伸ばして性別の淡くなりつつひとりの眠り
#837 紛れなき素顔のわれを映す窓拭いて何を消さんとするや
#838 うつつとは関わり持たぬ時空にて醒めてみる夢煙りのごとし
#839 金もなく切符も持たず乗らんとする列車のドアの開かざる夢
#840 目を凝らしもの思うとき天井の節穴突如渦巻き揺れる
#851 食欲は思案の他にて欠かすなき飲食されど美食にあらず
#854 欠け皿に似たるか我が生き使うならまだ道はありかそかある自負
#860 目を曳きし冬のセーター求めきてひと日ふた日の心足らえり
#863 何守るわが命かと茫たれば振り上げし鍬崩れて落ちる
#868 絹の糸流るるごとく沁み透る魔の水に落ちゆく眠りの迷路
#869 バレリーナとも花ともくらげの游泳を水族館の暗きに飽きず
#874 諸もろの芥積み上げ放つ火に焔のあげる滅びの凱歌
#875 火の降るとも走れぬわれの歩みがなか時雨無情に髪濡らしけり
#876 ポケットの小さな闇にしのばせる鍵の子守のような鈴の音
#877 畑土に触れざりし日の悔い煽り夕べの風の雨を連れくる
#879 音絶えてひと日の労に瞑りいるうつそみわれは脆き物体
#881 月末の支払い終えて嵩低き財布にほっと息吹きかける
#882 泥のつく軍手脱ぐ手のほの温し庇われいると束の間思う
#888 女男の刃の微妙に合わぬ握り鋏仲人なすがにしつこく研ぎやる
#889 うたた寝の夢しどろなりがぱっと醒め昼か夜かとまずは窓みる
#892 あるがまま低きに向きて水はゆく逃げ場を持たぬわが冬籠もり
#895 わが武器は沈黙なりしこれ程の冷たき否定の又とあろうか
#904 温めし楽しみひとつ過去となる疲れを土産の旅ゆ戻れり
#906 爽やかな目覚め愉しむ些事ながら外出の用事ひとつ持つ朝
#908 次の世もおみなと生まれて悔ゆるなし願わくば強き四肢賜えかし
#910 約束を破らぬ性がわが身上みぞれの舗道ひたすら走る
#916 声落としひとりも良けれと囁き合う無夫のふたりに病はあるな
#917 飲みさしの冷たきコーヒー飲み下し無理に瞑れど明日が見えぬ
#919 さきいかを肴に地酒をなめている仏の他に知るものはなし
#920 熊笹の繁りをみれば寿司ひとつ包みてみたし昔主婦なる
#924 残りものようやくつきて新しき飯たく匂いに厨明るむ
#925 てのひらの温みに指を庇いつつもどる野径にたつ群雀
#926 曖昧な会話は要らぬ脳天をぐさり貫く歌評の欲しき
#927 そこばくの塩気に足りて白飯の今も昔も変わるなし味覚
#929 身の枷のなべて解かれし老坂のかそけかる華歌とう魔もの
#931 身に重き来しの歳月心処に氷室抱くも峡捨てがたし
#934 改めて花よもみじと騒ぐなしありのままなる生きの循環
#936 手強くて尤も脆き自らを標的となし生きんか残り世
#937 ひめやかな祷りのごとき黄昏の天の沈黙われの沈黙
#939 見送るに慣れてしまらく立つ傘の露打ち払う夕暮れの寂
#943 大切な封書ぱくりと呑むポスト此れより先は汝が責任
#945 戯れに「遺書」としたため財もたぬわが旅立ちに書くこともなし
#948 魂のうつそみ抜けて彷徨うか今宵は文字を拾わぬまなこ
#949 黙々と茶漬けに事足りてすこやけき命いとしむ理由は要らぬ
#952 積み上げし苦労の実り見ぬ人に生きて泪をこぼし参らす
#953 噛み合わぬ話題はぽんと抜くビールの泡に紛らす術も知るなり
#954 足裏の交互に地を踏むと言う単純にして尊き動作
#956 じぐざぐに落ちゆく眠りつけ置きしテレビドラマの終末知らず
#969 ハンドルを握れば確かに若がえるまだ大丈夫後十年は
#975 嫁妻母なべて解かれし孤の世界流離はときに愉楽へ続く
#978 突進型行きはまづまづ戻りに迷う持って生まれし方角音痴
#979 いつしかに人の忘るる古池の無縁仏に似たる静もり
#981 格別に金に執することもなく時折残高確かめいたり
#982 食いつめてと言うにはあらず田はすべて処分なしたり許させ給え
#985 恍惚の人のごとくに利を産まぬ地の草引くそれだも待たるる
#986 どっしりと女の匂い籠らせる和箪笥無用の長物となる
#987 辿るべき道を辿りて七十路の案外明るきひとり住みなる
#988 ほがらかなる春陽の下に古稀過ぎてふと戻りたき女の世界
#993 女三界に家なしなどと戯け言三棟の家屋我が持て余す
#995 膨らみし餅の空洞透かしみつひとつのものはひとつでしかない
#998 身構える要なきこたつにじんじんと勝手に過ぎゆく刻を惜しまず
#1000 書き留めし言葉息づく紙切れの狼籍極めつあやなす語わら
#1003 贈られしピンクのはんかちしげしげと大正の女戸惑いいたり
#1004 追うからは日高川なる蛇ともなれ紅ひきそえて書房へ走る
#1007 凝らしみるほどに遠のく歌の奥眠る他なし読むにも疲れ
#1009 叶わざる労なきごとし湯の中に伸ばせば脚の痛み覚えず
#1010 やり場なき悲しみもあり生きる自負崩えなん朝の紅き山茶花
#1011 湧きいずるかたちなきもの歌い上げ解って欲しと強いては言わぬ
#1013 人妬む心湧かぬをうれしみてこれにて足れりと思うてもみる
#1014 怠惰にはつい慣れやすく立ち直る気力湧くかと春を怖るる
#1018 絶叫型押さえて詠めば物足らず塩気抜かれしお粥のような
#1020 ひとり言ふいに明るくとび出せり歌集の原稿まとめし抜殻
<管理人のつぶやき>
■麦畑 頭をよぎるウクライナ